牛骨(ヴィールボーン)のローストから始めるフォンドボーとビーフシチュー
一般に時間のかかる料理として認知されているビーフシチュー。
固いスネ肉などを煮込んで作るのが一般的で、煮込む必要があるからできあいのルゥを使っても時間がかかってしまいます。市販のドミグラスソースを使えばもっと時間がかかります。
洋食レストランでは高級な部類に入りますが、レストランの場合ドミグラスソースも自作していますから当たり前です。
ドミグラスソースはだし汁(フォン)に小麦粉・バター・甘いワイン(一般的にマデラ酒)を加え煮詰めて作りますが、元となるだし汁も作るのに数日かかりますから、ビーフシチューになるまでにものすごい手間暇をかけているわけです。
この手間暇かかるビーフシチューを果たして家庭で作れるか、ってのが今回の話で、結論から言えばもちろん出来ます。
ただし、だし汁を作るに朝から始めても夜中までかかります。多少はしょっても丸2日はかかる作業です。また、水分が蒸発しにくい口の狭い鍋=寸胴が必要となり(普通の鍋でも出来なくはないです)、子牛の骨と各種ハーブを仕入れられる環境にないといけません。なかなかハードルの高い料理ではありますが、キレイに澄ませただし汁が必要なコンソメスープと違って雑味豊かでも問題ないはずですから、素人でも頑張れば出来ると思います。私も素人ですし。
だし汁は子牛の骨を使った褐色のフォン、フォン・ド・ヴォーを使います。フォン・ド・ヴォーは日本ではS&B食品のカレー粉「ディナーカレー」がその名を日本に広めたと思いますが、ようはだし汁のことです。
褐色のフォン、というのはだしを取る素材に焼き色を付けてその素材と焦げ身をだしにする技法で作るだし汁で、フォン・ド・ヴォーの場合は子牛の骨をローストして使います。ちなみにフォンはだし、ヴォーは子牛の意味です。
うんちくはこの辺りにして、作業に入ります。
レシピは辻調の「基礎からわかるフランス料理」とル・コルドン・ブルーのフランス料理基礎ノートを参考にしています(考え方が微妙に違うのが面白いところです)。
用意したのは子牛の骨2キロ、すじ肉1キロ、タマネギ3個、トマト2個、セロリ2本。それににんにく3片とハーブを束ねたブーケ・ガルニ(タイム、ローリエ、セロリの茎、ローズマリー等)。
まず、子牛の骨を焼きます。これをしないと始まりません。
オーブンでローストしますが、家庭用オーブンでは一度では出来ません。2度に分けてローストします。
温度はどちらのレシピでも220度超となっていますが、焦がせば失敗確定ですから200度で様子を見ながら焼いています。焼き具合を見ながら向きも変え、1時間くらいで焼き上がりました。
重要なのは鉄板についたお焦げす。本当に焦げていたら使いものになりませんが、これは旨みを凝縮しているもの(と言われている)ので、絶対に捨てずにお湯と木べらでこそぎ落としましょう。
すじ肉と香味野菜は同時進行でローストしますので、フライパンを使います。
どちらも香ばしい匂いがするまで焼き。骨同様お焦げはお湯と木べらでこそぎ落とします。
すじ肉は焼き色を付けた後一度茹でこぼしています。
焼き終わったら焼いた材料をすべて寸胴に入れてお湯を投入。
輪切りにしたトマト1個、にんにくとブーケ・ガルニを加えて煮込みます。
最初は強火で。沸騰したら優しい火加減にし、沸騰しない温度に保ちながら煮込みます。
ところでこの寸胴は24cmのもので容量11リットル。お湯はこの高さまで来ます。
「鍋でも出来る」と書きましたが、基本的に大きな鍋が2つないと厳しいと思います。また、鍋は厚手なものでないと難しいでしょう。
火に掛けている間、頃合いを見て灰汁をすくい取ります。
灰汁はどこまで掬えばいいのか?コンソメのように澄んだだし汁が欲しければとり続ける必要があるかも知れません。その昔、ONE PEACEのコック・サンジくんがよく言っていた「灰汁を取り取り三日三晩」のあれです。
ただし、これは褐色のフォンで最終的にビーフシチューになりますからそこまでする必要も無いと思います。灰汁と一緒にゼラチンも掬ってしまいますし。雑味も味の一つと割り切って、頃合いを見て掬う程度で構わないと個人的には思っています。
↓この写真は火に掛けて4時間くらいたったもの。水はだいぶ減り、野菜はだいぶ小型化しました。木べらの上に乗っているのは骨で、スジが一部残っていますが他は骨から外れています。すじ肉は赤身以外残っていません。
再びお湯を加えて、さらに煮込むこと5時間。
骨は骨だけに。ほかのすじ肉はすでに正体なし。野菜も茎と皮だけと溶けにくいものしか残っていません。水分もご覧の通り。
9時間煮込みました。ここで一回火を止めだし汁を漉し取ります。
漉し取るというと簡単に聞こえてしまいますが、かなりのゼラチンが出ていますから漉し取るのも大変です。ただしこの辺りは割愛しまして、
出来ました。完成です。
ただ、これだけではもったいないので残った素材でもう一度だしを取ります。
残った材料にお湯を加えてもう4時間煮込み、そしてまた漉し取ります。
冒頭で辻調とル・コルドン・ブルーで微妙に考え方が違うと書きましたが、実はこの漉し取り方で大きく違います。辻調は漉し取った後の素材をさらに押しこんで水分を出してはいけない、と書いてありますがル・コルドン・ブルーは真逆で「ギュ・キュと押しこんで最後までだしを取る」と書いてあります。小さいようで大きな違いです。
思いますにこれ、プロでも意見が分かれると思います。
辻調はプロの卵を育てていますから高級店でも対応出来る上品な方法を教えていると思います。
対してル・コルドン・ブルーはプロが素人に教えている教本ですから、家庭料理の一環として雑味も含めてだしを取れと言っているのかも知れません(プロが通うパリ校ではどう教えているのでしょうか?)。
私の場合は2回目の時に押しこんでだしを取ります。もったいないから。
灰汁を掬う下りで「頃合いを見て掬う程度で構わない」と書いたのも結局最後にこれをやるからです。
ともあれ、漉し取りました。
2つのだし汁が出来ました。こちらを合わせます。
ちょっと冷めただけでゼラチンが固まっていますね。いい傾向です。
フォン・ド・ヴォーはこれで完成。ここで作業は一端終わり。翌日に持ち越すため急冷して冷蔵庫に入れておきます。
2日目です。フォン・ド・ヴォーは完成と書きましたが実はちょっと薄いんです。最終的にビーフシチューになりますし。ですので少々煮詰めます。煮詰めつつ、すね肉を下ゆでします。
ちなにみ冷蔵庫で一晩置いたフォン・ド・ヴォーはこんな感じ。固形物です。
使うすね肉はこちら。1キロ。米沢牛です。
「米沢牛専門店さかの」さんのすね肉ですが、こちらのすね肉はスジ付きのブロックです。欲しいのはこれなんで、いつもここで買っています。
適度にスジを外したあと、焼き色をつけ、
フォン・ド・ヴォーに入れて下ゆですること2時間。ゆであがりました。冷蔵庫で冷ましてから小さく切り、後ほど完成したドミグラスソースに投入します。
フォン・ド・ヴォーともいよいよお別れ。ドミグラスソース作りに入ります。
小麦粉とバターを焦がさぬようゆっくり火を通して香ばしく仕上げ、
フォン・ド・ヴォーに投入。さらにマデラ酒を加え、もはや後戻りは不能!
ドミグラスソースとなっていきます。
途中ドミグラスソースっぽい香りになっていきます。そこで塩を加え味付け。味を調えつつ煮込むこと計2時間。
ほぼ完成だ!すね肉を投入してさらに30分ほど煮込み、
完成しました。仕上がり2リットルほど。
最初あれだけの量を用意して、出来たのはこれだけ。
なんともぜいたくな料理ですね。
余ったトマトをコンフィにして付け合わせ。もう一つはポムアリュメット、フライドポテトですがビーフシチューとよく合います。
丸2日で完成。
自分でいうのもなんですが、市販品と比べものにならないくらいのおいしさですよ。
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